大使のサイト
除染に託す未来
2012年1月13日,日本での会議のために帰国していた欧州各国大使のうち,11名が東日本大震災の被害を受けた福島県と相馬市を訪問し,除染の現場を見る機会を得ました。福島県,相馬市とも復興に向けて極めて多忙な中,私共に貴重な時間を割いて頂いたことに御礼申し上げます。まず最初に福島県庁を訪問し,復興計画の概要につき説明を受け,その後佐藤県知事と懇談致しました。知事からは「福島県は世界各国から沢山の支援を頂いたが,これは各大使の日頃の尽力の賜物であり,改めてお礼申し上げたい。(中略)風評被害は深刻である。日々原発事故に関する報道がなされているが,福島は汚染されているとの先入観が形成され,これが風評被害につながり,福島県産の生産物が流通しなくなり経済活動が縮小している。このような誤解を払拭するためにも,福島のみならず日本全体の現状について正確な情報をしっかりと世界に発信していただきたい。」との御要望があり,各大使からも「福島県の毅然とした対応を賞賛する,欧州に帰国後,風評被害の軽減のため全力を尽くしたい,その一環として赴任地に於いて福島県産の物品の紹介や観光交流に努力したい」旨等の応答を致しました。
その後,相馬市を訪問し、立谷相馬市長より地震・津波・原発事故当日の厳しい対応について具体的かつ生々しいお話を伺いました。危機時に於けるリーダーシップのあり方や政治家として如何に相馬市民に寄り添って来たか,特に親を失った子ども達への奨学金を世界に訴える等,将来を見据えた措置を次々と取り組んでおられます。
また,その後訪問した除染の現場では約130人の人々が作業に当たっていました。これは村を2ヶ月で除染し,放射線量を生活可能なレベルに下げるというパイロットプロジェクトで,このプロジェクトでの経験や課題を基に今後の除染活動を進めていくとのことでした。ここで私が感銘を受けたのは,舗装道路や学校のコンクリート側面などにとどまらず,木造の家屋の除染,更には田畑や周囲の森林についても除染計画に含まれていたことでした。
道路や建物の一つ一つを除染するという膨大な作業に加え,田畑は表面土を3-4cm削り取るのですが,既に耕してきた田畑は更に多くの努力を必要とします。次に森林はどうするのか。曰く,広葉樹は3月11日の時点では落葉して地面に落ち,積もっているのでこれを除く。必要であれば地面も対象とする。他方,松などの針葉樹は木々が枯れない程度に,つまり,枝葉は1/2程度を切り落として間引きする,とのことでした。その作業は想像しただけでも気の遠くなるようなものです。しかし「除染なくして復興なし」との強い意志を以てこの計画は立てられたのです。「どうしても故郷に戻りたい,故郷を取り戻したい」という人々の強い願望がこの地道な作業を支えているのです。
震災直後,世界の人々は,最悪の状況下でも礼節を保ち,整然と行動する日本人の姿に驚嘆しました。そして今,無惨な姿になった故郷を美しい故郷に再建しようとして除染に挑む日本人の気概が再び示されています。
苦境にあるときこそ人間が試されると言います。国や国民もそうでしょう。困難な時ほど、国や国民の価値や生命力が問われます。以前も書きましたが,1864年、プロイセンとの戦争に敗れ、最も豊かな南部二州(南シュレースヴィヒ及びホルスタイン)を失ったデンマークは未曾有の国難に直面します。その時、教会や制度よりも個人としての人間に焦点を当て、人々を鼓舞し啓蒙し続けた教育者グルントヴィ、「外で失いしものを内にて取り返すべし」として荒野ユトランドの植林に奔走したダルガス親子の半世紀に亘る歴史がそのことを教えているようです。我々日本人も今「試されている」のは間違いありません。先輩達が営々と築き上げてきたこの美しい国を希望と志を失わず、智恵を出し合い、整然とした行動を以て一歩一歩復興し、改革を進め、未来に向けてもう一度大きく扉を押し開くことこそが私達日本人に求められているのだと考えます。
頑張ろう日本!負けるな東北!