大使からの手紙 脱炭素社会に向けて
令和3年1月28日
拝啓
寒さ厳しき折、読者のみなさまにおかれては、如何お過ごしでしょうか。
今から1年前、2020年1月の手紙でも、気候変動について取り上げ、「できることから始める」と述べましたが、今年も1年の初めに、日本とデンマーク、EUそして国際社会共通の喫緊の課題、気候変動問題について触れたいと思います。
1 2050年脱炭素社会に向けて
昨年10月、国会の所信表明演説において、菅総理は2050年までに脱炭素社会を達成する旨発表しました。デンマーク、EUとも、この発表を歓迎し期待するとの反応でした。そして12月、日本政府が14の重要優先分野を盛り込んだグリーン成長戦略を策定し、そのトップに洋上風力発電が標記され、また水素の活用等も明記されたことは、デンマークと日本の間のビジネスの積み重ねや、官民様々な対話が多少なりとも影響したのでは、と思わせる内容であり、コペンハーゲンに在勤する者として意を強く致しました。更に、個別の分野では、日本とデンマークが共に海洋国家であることを背景に、海運分野でのゼロ・エミッションに向けた両国企業の切磋琢磨、デジタル技術の一層の導入に向けた取組みには、目を見張るものがあります。例えば、日本の電気推進船ROBOSHIP Ver.1.0の発表は、デンマークの海運関係者も注目しており、また、海運最大手マースク社のゼロ・エミッション研究所に三菱重工及びNYKが参加して最適な燃料等について共同研究を進めていることは、デンマーク側も高く評価しています。
2 国連気候変動枠組み条約への米国の復帰
さて、今年最初の朗報は、1月20日に就任したバイデン米大統領が、国連気候変動枠組み条約への米国の復帰を決定したことでした。茂木外務大臣は決定を歓迎するとの声明を発出しました。デンマーク及びEUも決定を歓迎しています。これから、米国が交渉の席に戻ってきます。若干脱線しますが、筆者は、1990年代に国連気候変動枠組み条約の起草交渉の日本チームに参加したことがあり、当時の米国交渉団との厳しいやりとりや、2000年代に外務省経済安全保障課長として、エネルギー安保の視点から米国の気候変動・エネルギー政策について米国関係者と意見交換したこと、日本人候補が立った国際エネルギー機関(IEA)事務局長選挙で、米国からの支持確保にオール・ジャパンで努力したこと等、走馬燈のように思い出されます。マルチの国際会議における米国の存在感は、確固たるものがあります。本年11月に英国グラスゴーでの第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議が予定される中、米国と交渉の席で、議論を重ねて行けることについて、日本の同僚も気持ちを引き締めていることと想像します。
3 2021年の機会と課題
最後に、2021年を通じて、日本とデンマークが気候変動問題に取組んで行く上での機会と課題について触れたいと思います。本年1月11日、フレデリクセン・デンマーク首相は、IEAのハイレベル・グローバル委員会「我々の包摂的なエネルギーの未来」委員長に就任したことが発表されました。IEAと共に、エネルギー部門における2050年までのゼロ・エミッションの取組みについて、市民社会が最も効果的に裨益できるよう議論を重ねて行くそうです。IEAでの様々な議論や共同作業に、日本は能動的に取組んでいます。IEAや国連において、日本とデンマークが協力する新たな機会が生じる可能性もあり得ると思います。
デンマークは、2030年までに温室効果ガス70%削減目標を掲げ、EU及び国際社会の議論を牽引せんと試みています。デンマークは、特に、昨年10月の2050年脱炭素社会宣言以降、日本の気候変動外交におけるリーダーシップを評価しながら、唯一、日本のアジア諸国等への石炭火力支援については、今後クリーン・コール技術支援から再生エネルギー技術支援やビジネスに転換できないかとの意見も表明しています。そうした異論を表明する際も、デンマークは、日本の取組みに一定の進展があったことは認識し、途上国それぞれの社会経済状況があることは十分に尊重すべきとの前提に立ち、自らのペースを他国に無理強いすることはせず、「一緒にできることは何であろうか」、「もっと仲間を増やすにはどうしたら良いだろうか」との姿勢に徹しているように思います。日本がデンマークと戦略的に協力して、共に切磋琢磨しながら国際社会、そして未来の世代に対して、積極的に貢献することは、翻って日本の利益にもなり得ると思います。
追伸:
1月6日に新型コロナウイルス感染症へのデンマーク国内の規制措置の強化、延長が発表されたため、今月予定された多くのアポイントメントの延期を余儀なくされました。そうした中、感染症対策を万全にしながら、ソアンセン・デンマーク産業連盟CEO、ステフェンセン・デンマーク海運協会CEO、グロンベック=イエンセン外務省欧州・北米・北極担当外務審議官、ラッセン同省政務局長、クリスチャンセン同省気候担当大使、ケルストラップ同省貿易担当大使他幹部等と二国間関係及び国際社会での協力について、意見交換を行いました。また、ここ数年間、台東区との高校生交流を進めてきた高校のエデレスコフ校長と、コロナ後の交流再開について具体的な打合せを行い、当地日本研究者会合と共催した「生活の質とジェンダー問題」に関するウェビナーで開会の言葉を述べました。欧州3ヶ国、アジア2ヶ国の当地駐在大使とも、個別に新型コロナウイルス感染症対策や共通の関心事項について、話をする機会がありました。
寒さ厳しき折、読者のみなさまにおかれては、如何お過ごしでしょうか。
今から1年前、2020年1月の手紙でも、気候変動について取り上げ、「できることから始める」と述べましたが、今年も1年の初めに、日本とデンマーク、EUそして国際社会共通の喫緊の課題、気候変動問題について触れたいと思います。
1 2050年脱炭素社会に向けて
昨年10月、国会の所信表明演説において、菅総理は2050年までに脱炭素社会を達成する旨発表しました。デンマーク、EUとも、この発表を歓迎し期待するとの反応でした。そして12月、日本政府が14の重要優先分野を盛り込んだグリーン成長戦略を策定し、そのトップに洋上風力発電が標記され、また水素の活用等も明記されたことは、デンマークと日本の間のビジネスの積み重ねや、官民様々な対話が多少なりとも影響したのでは、と思わせる内容であり、コペンハーゲンに在勤する者として意を強く致しました。更に、個別の分野では、日本とデンマークが共に海洋国家であることを背景に、海運分野でのゼロ・エミッションに向けた両国企業の切磋琢磨、デジタル技術の一層の導入に向けた取組みには、目を見張るものがあります。例えば、日本の電気推進船ROBOSHIP Ver.1.0の発表は、デンマークの海運関係者も注目しており、また、海運最大手マースク社のゼロ・エミッション研究所に三菱重工及びNYKが参加して最適な燃料等について共同研究を進めていることは、デンマーク側も高く評価しています。


https://www.e5ship.com/pdf/2020-12-10_en.pdf
2 国連気候変動枠組み条約への米国の復帰
さて、今年最初の朗報は、1月20日に就任したバイデン米大統領が、国連気候変動枠組み条約への米国の復帰を決定したことでした。茂木外務大臣は決定を歓迎するとの声明を発出しました。デンマーク及びEUも決定を歓迎しています。これから、米国が交渉の席に戻ってきます。若干脱線しますが、筆者は、1990年代に国連気候変動枠組み条約の起草交渉の日本チームに参加したことがあり、当時の米国交渉団との厳しいやりとりや、2000年代に外務省経済安全保障課長として、エネルギー安保の視点から米国の気候変動・エネルギー政策について米国関係者と意見交換したこと、日本人候補が立った国際エネルギー機関(IEA)事務局長選挙で、米国からの支持確保にオール・ジャパンで努力したこと等、走馬燈のように思い出されます。マルチの国際会議における米国の存在感は、確固たるものがあります。本年11月に英国グラスゴーでの第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議が予定される中、米国と交渉の席で、議論を重ねて行けることについて、日本の同僚も気持ちを引き締めていることと想像します。


首相官邸ホームページ
3 2021年の機会と課題
最後に、2021年を通じて、日本とデンマークが気候変動問題に取組んで行く上での機会と課題について触れたいと思います。本年1月11日、フレデリクセン・デンマーク首相は、IEAのハイレベル・グローバル委員会「我々の包摂的なエネルギーの未来」委員長に就任したことが発表されました。IEAと共に、エネルギー部門における2050年までのゼロ・エミッションの取組みについて、市民社会が最も効果的に裨益できるよう議論を重ねて行くそうです。IEAでの様々な議論や共同作業に、日本は能動的に取組んでいます。IEAや国連において、日本とデンマークが協力する新たな機会が生じる可能性もあり得ると思います。
デンマークは、2030年までに温室効果ガス70%削減目標を掲げ、EU及び国際社会の議論を牽引せんと試みています。デンマークは、特に、昨年10月の2050年脱炭素社会宣言以降、日本の気候変動外交におけるリーダーシップを評価しながら、唯一、日本のアジア諸国等への石炭火力支援については、今後クリーン・コール技術支援から再生エネルギー技術支援やビジネスに転換できないかとの意見も表明しています。そうした異論を表明する際も、デンマークは、日本の取組みに一定の進展があったことは認識し、途上国それぞれの社会経済状況があることは十分に尊重すべきとの前提に立ち、自らのペースを他国に無理強いすることはせず、「一緒にできることは何であろうか」、「もっと仲間を増やすにはどうしたら良いだろうか」との姿勢に徹しているように思います。日本がデンマークと戦略的に協力して、共に切磋琢磨しながら国際社会、そして未来の世代に対して、積極的に貢献することは、翻って日本の利益にもなり得ると思います。

フレデリクセン首相Facebook
2021年、引き続き新型コロナウイルス感染症がもたらす挑戦への取組みは続きます。寒さ厳しき折、読者のみなさまにおかれましても、どうぞ御自愛の程を心よりお祈り申上げます。また、来月、紙面にてお会いできることを楽しみに。![]() |
敬具 |
在デンマーク日本大使館 |
宮川 学 |
1月6日に新型コロナウイルス感染症へのデンマーク国内の規制措置の強化、延長が発表されたため、今月予定された多くのアポイントメントの延期を余儀なくされました。そうした中、感染症対策を万全にしながら、ソアンセン・デンマーク産業連盟CEO、ステフェンセン・デンマーク海運協会CEO、グロンベック=イエンセン外務省欧州・北米・北極担当外務審議官、ラッセン同省政務局長、クリスチャンセン同省気候担当大使、ケルストラップ同省貿易担当大使他幹部等と二国間関係及び国際社会での協力について、意見交換を行いました。また、ここ数年間、台東区との高校生交流を進めてきた高校のエデレスコフ校長と、コロナ後の交流再開について具体的な打合せを行い、当地日本研究者会合と共催した「生活の質とジェンダー問題」に関するウェビナーで開会の言葉を述べました。欧州3ヶ国、アジア2ヶ国の当地駐在大使とも、個別に新型コロナウイルス感染症対策や共通の関心事項について、話をする機会がありました。