デンマークの素晴らしいスポーツ文化(大使からの手紙5月号)
拝啓
デンマークの春は、新緑の鮮やかな緑が、日々濃い緑に変わっていく清々しい季節です。読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか。
オリンピック開幕まで残り2か月を切り、行く先々にて、「オリンピックは大丈夫か」と、ほとんど挨拶代わりのように聞かれます。デンマークの主要メディアも、デンマーク選手の準備状況や、日本の世論の動向について折々に報じています。新型コロナウイルス感染症の状況が、日本国内のみならず、世界各国で日々変化している中、「安全安心な大会となるよう万全な準備に努めている」と説明することで、大抵の場合、デンマークの方々は深くうなずいて頂けます。「日本であれば、きっとこの大変な状況でのオリンピックを成功させてくれると信頼している」とおっしゃって頂くことも、良くあります。日本人の面前で、「無理でしょ」とは言いにくいのかもしれませんが、長年の両国間の交流や、国際社会における日本の行動を通じて築かれてきた日本への信頼、友情の賜物であるように感じられます。
昨年3月以降、コロナのせいで、日本から当地に訪れる方は、ほとんど途絶えてしまっていますが、そうした中、今月、久方ぶりに、ハンドボール女子日本代表チームのメンバーが、事前合宿のため、デンマークを訪問されています。勿論、選手たちは、いわゆるバブルの中で外部との接触を断って練習に専念しており、応援に駆けつけるわけにはいかないのですが、「がんばってください」との気持ちはお伝えしています。日本チームの監督は、デンマークのウルリック・キルケリー氏。5月29日、同氏は、デンマーク女子トップ・リーグの「オーデンセ」監督として、見事にリーグ優勝を達成しました。先日、決勝リーグ初戦を観戦しました。全日本代表であり、かつ「オーデンセ」の主力ライト・ウィングの池原綾香選手が2ゴールを決め、チームも勝利しました。コロナ前であれば、試合後、サポーターたちが、コートに入って選手たちと話をする風景が普通に見られますが、今回は、そもそも規制の段階的な緩和の中で、観客数を絞り、事前のコロナ検査陰性結果の取得を義務づけた、初の観客入りの試合であり、そうした交流の風景はなく、遠くから「おめでとうございます」と声をかける姿が見かけられました。
過去のオリンピックを振り返れば、デンマークは、ハンドボール、バドミントン、セーリング、水泳、カヌー、自転車、フェンシング、ボクシング、射撃、馬術などの競技で多くのメダリストを輩出しています。この1年間ほどで、各種目の関係者のお話を伺う機会がありましたが、コロナのために対人の練習が規制された時期、長い期間の無観客試合、予選会の延期、代表選手へのワクチン接種を巡る様々な議論など、選手やコーチは、多くの試練を乗り越えて、最後の準備に余念がありません。どの種目においても、特徴的なのは、全国各地にあるクラブでの練習、交流が盛んなことです。地元の子供から大人までが一緒になって、練習や交流に汗を流す。その中で、オリンピックやパラリンピックの代表を目指すのは、限られた一部の選手たちですが、皆が一緒に練習し、いわば共同体精神のような連帯感が自然に生じる。そのような文化があり、多くのデンマーク人が、そうした習慣を肯定的に捉えている姿を何度も目撃してきました。国や地方公共団体、さらには企業や学校も、そうした文化を支えるための努力を積み重ねてきています。例えば、各種スポーツ連盟の会長や理事会メンバーは無給です(本業で別のビジネスに携わっている方がほとんどのようです)。
10年前の東日本大震災の3か月後。フレデリック皇太子殿下が被災地を訪問され、地元の子供たちとサッカーを行う姿を目にした読者の方もおられるのではないかと想像します。国際オリンピック委員会へのデンマーク代表も務められる皇太子殿下は、毎年、デンマーク王国全土で開催され、多くの市民が参加するロイヤル・ランという長距離走の主催者でもあります。2020年と21年春のロイヤル・ランは、コロナのために中止となりましたが、社会の再開にともない、ロイヤル・ランの再開も心待ちにされます。それまで、私も毎朝9階にある事務所まで、歩き、早歩き、最後は駆け上がれるようにして、最短の1マイル・ランを無事完走できるよう準備しておきたいと思います。
末筆ながら、読者の皆様のご自愛のほどお祈り申し上げます。また来月、紙面やどこかで再会できることを楽しみにしております。
敬具 |
在デンマーク日本大使館 |
宮川 学 |
追伸:
5月は、エンゲルブレクト運輸大臣、プレーン食料大臣、ボアベア・グリーンランド外務・経済・貿易・気候大臣、ハンセン・フェロー諸島クラクスヴィー市長、ソアンセン・デンマーク産業連盟CEO、ピン・サイバー・セキュリティー協会CEO、イサケンGreen Mobility前CEO,マルケト・セーリング連盟会長、ウッツオン建築家、アナセン文化省次官、アナセン移民統合省副次官、ホメル外務審議官等外務省幹部はじめ、デンマークの官民の関係者とお会いし、日本とデンマーク王国との協力、交流や、デンマーク王国在住の日本人の安全と安心などについて意見交換する機会がありました。週2回程度、新型コロナウイルス感染症検査に通い、72時間有効な陰性結果を取得しています。来月は、ワクチン接種の順番が回ってきます。