デンマーク憲法記念日、そしてワクチン協力(大使からの手紙6月号)

令和3年6月30日

 

 

拝啓
   向暑の候、読者の皆様におかれては、いかがお過ごしでしょうか。デンマークの夏至は、空を焦がさんばかりの焚火にて、洗礼者ヨハネの誕生日を祝い、魔女を追い出すサンクト・ハンス・アフテンのお祭りで始まります。そして、白地に赤や青の線の入った特製の帽子をかぶった高校の卒業生たちが大きなトラックの荷台に乗って、順番に実家を訪ね家族や友人と人生の節目を祝う風景が見られます。
   デンマークでは、6月5日が憲法記念日です。1849年6月5日、絶対王政に終止符を打ち、父君クリスチャン八世国王陛下の遺訓のとおり、フレデリック七世国王陛下が署名されたデンマーク憲法は、「社会の一連の基本的原則及びルールをもって、デンマークの民主主義の枠組みを定める。例えば、憲法は言論の自由、宗教の自由、義務的軍役などの個々の市民の権利と義務を規定する」(デンマーク国会HPより引用)ものです。
   デンマーク憲法第77条は、「何人なるも、自身の考えを印刷物、書籍、演説で表明する自由を有する。但し、法廷に対してその責任を負う。検閲及び他の予防的措置は二度と導入されてはならない。」と規定しています。日本国憲法第21条の「1 集会、結社及び言論、出版の自由は、これを保障する。2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密はこれを侵してはならない。」と同旨の規定のようです。
   「言論の自由」について、デンマークのメディアは筋金入りです。世界報道自由度ランキングでは、毎年4位あたりにつけているようです。最近では、香港のリンゴ日報の停止について、複数の全国紙が社説を掲げて「言論の自由」を踏みにじるものと批判を展開しました。また、2005年にムハンマドを揶揄する風刺画を掲載した全国紙ユランス・ポステンは、今日に至るまでテロ、脅迫の脅威にさらされながらも、「言論の自由」については、妥協の余地はないとの毅然とした姿勢を貫いています。今月中旬、デンマーク第2の都市オーフスに本社を置くユランス・ポステン社の新社屋を見学する機会を頂きましたが、正面玄関前に配置された、青紫系のパステル・カラーに彩られた沢山の椅子のオブジェには、アートと対テロ双方の意味があることを知らされ、デンマークにおける「言論の自由」を垣間見たような気がしました。

 


(デンマーク憲法 写真:国会HP)


   最後に、新型コロナウイルス感染症ワクチンを巡る日本とデンマークの協力について一言報告します。6月2日、「誰一人取り残さない」との共通の目的に向け、日本はCOVAXワクチン・サミットを共催しました。会議にビデオ参加頂いたモーテンセン開発担当大臣からは、デンマークの対途上国ワクチン供与について説明頂きました。菅総理大臣は、(1)日本は2億ドルの貢献に加え、8億ドルを追加拠出すること、(2)日本国内で製造するワクチンを、3,000万回分を目途として各国・地域に供給していく考えを示しました。サミットの結果、各国から、追加資金拠出が表明され、18億回分(対象となる途上国の人口約30%相当)のワクチンを確保する上での資金調達目標(83億ドル)を大きく超える額を確保することができました。ちなみに、デンマークでは、6月末現在、国民の約55%が1回目のワクチン接種を終え、約30%が2回目のワクチン接種を完了しています。今月、日本では職域接種の進展等もあり、1日100万回の接種回数を超える日もあり、着実にワクチン接種が増えています。

   それでは、次は7月に、読者の皆様と紙面で、またはデンマークのどこかで、あるいはオンライン上でお会いできることを心待ちにしつつ、時節柄、ご自愛のほどお祈り申し上げます。

 
 
 敬具
在デンマーク日本大使館
宮川 学





 

 

 

(筆者。再開したカレン・ブリクセン博物館にて)


追伸
   今月は、ディトマー産業ビジネス金融次官、ソアンセン特許庁長官、ニューブロ・ユランス・ポステン新聞編集長、ホルム翻訳家、イエンセン国会議員(前食料・漁業・平等機会・北欧協力相)、クリスチャンセン・オーフス大学政治学部長、ナトープ国内オリンピック・パラリンピック新会長、ホヤステンARoSオーフス美術館長、オベル同財団(建築)会長、ソアンセン政務外務審議官、マコン開発協力外務審議官等の外務省幹部とお会いし、両国の政治・経済・文化スポーツ関係の強化、途上国へのワクチン供給のための国際協力等について意見交換を行いました。また、DNP(大日本印刷)デンマーク社の事業と製造施設を見学する機会を頂きました。ありがとうございました。