大使レター9月号 「グリーンランド再訪」

令和3年9月28日

拝啓
    日増しに秋の深まりを感じる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。デンマークは、9月に入ってから、社会の再開が格段に進んでいることを実感します。昨年は軒並み中止となった会合、行事が次々と開催され、マスクを外した人々の表情も、心なしか明るくなったように感じられます。そうした中、日本からデンマークを訪れる日本人の方々が少しずつですが、戻りつつあることも嬉しいニュースです。
 


9月のコペンハーゲン郊外、鹿公園


   さて、筆者は、9月28日から4日間、デンマーク外務省及びグリーンランド自治政府の主催による当地各国大使のグリーンランド訪問に参加の予定です(この手紙を書いているのは9月25日なので、後日、感想等紹介させて頂ければ幸いです。)2020年2月に大使館員及び当地の日本企業の代表の方々と共に訪問して以来、新型コロナウイルス感染症による往来規制もあり、1年7か月ぶりの訪問となります。

   グリーンランドと日本との関係は、伝統的に、漁業貿易と北極圏の科学調査を中心に発展してきました。また、捕鯨についても協調してきた関係にあります。今後も、これらの協力は、重要な柱です。漁業については、ロイヤル・グリーンランド社は、東京支店を置き、甘えび、えんがわといった海産物を日本に輸出しています。北極圏の協力については、2018年のアイスランドで開催された北極サークルにおいて、河野外務大臣(当時)が、政策演説を行い、天然資源の開発や北極海航路の利用といった「機会」と、先住民の生活や生態系への悪影響といった「挑戦」に適切に対応することが重要であり、国際社会にとって「望ましい北極」の要素として、(1)環境変化メカニズムの解明、(2)先住民の生活に配慮した持続可能な経済利用、(3)「法の支配」に基づく平和で秩序ある国際協力があり、日本はすべての当事者と協力を進めたいとの姿勢について発言され、北極圏諸国の理解を深めました。

   同時に、少しずつですが、従来の関係を広げる試みも続けられてきています。例えば、漁業以外の分野での貿易投資も新たにできないであろうか、との思いもあり、2020年2月の訪問時には、日本企業の方々と共に、グリーンランド自治政府首相及び経済関係閣僚、経済団体、空港建設、海運、航空、漁業等の企業関係者とお会いして、様々な意見交換を行いました。もちろん、1回の会合で、契約署名といった単純なことではありませんので、折々にこうした機会を設け、相互の関心やビジネス機会を探って行ければと考えています。また、過去8年間、グリーンランドで毎年日本映画祭を開催してきており、昨年はコロナで中止となってしまいましたが、再開すべく準備中です。更に、未来に向けた若者交流を一歩一歩進められるよう、国費留学生や大学交流の可能性についても、関係者とやりとりを重ねています。

   今年4月に、グリーンランド総選挙があり、政権が交代しました。選挙の争点は、教育、福祉といった国民の日頃の暮らしに密接に関係する論点から、グリーンランド南部のウラニウム鉱山の開発プロジェクトの是非まで、多岐にわたりました。イヌイット友愛(IA)党を中心とする新たな連立政権は、選挙公約であったウラニウム鉱山の開発を中止し、また、5月、グリーンランドを訪問したブリンケン米国務長官と、米国との協力の重要性を再確認した他、デンマーク本国との一層の協力も深めつつあります。

         

公邸にて、グリーンランドIA党ラーセン国会議員(中央)と(右は松本書記官、左筆者)


   5月のブリンケン米国務長官のデンマーク訪問時には、グリーンランド自治政府のブロベア外務貿易経済気候大臣がコペンハーゲンを訪問し、ブリンケン長官とデンマークとの会談に参加し、また、筆者を含め、複数の大使とも個別に意見交換しました。ビジネスでの経験もあるブロベア大臣は、日本との経済関係の強化に熱心であり、水産物貿易の一層の振興と同時に、他の分野での貿易・投資の推進にも期待をもっておられるとの印象でした。9月末の外交団訪問とは別に、また、遠からずグリーンランドを訪問し、新政権の要路とじっくりと話すころができればと考えています。そして、新型コロナウイルス感染症による日本の水際規制が緩和された暁には、観光、若者交流から、ビジネス、政府、国会議員交流まで、分厚い交流が再開されるものと期待します。

   それでは、ご自愛のほどお祈り申し上げつつ、来月、この紙面またはデンマークのどこかでお会いできることを楽しみに、今回はこれで失礼いたします。
        

敬具
在デンマーク日本大使館
宮川 学
 






 

「食の国民会議」にてプレーン食料・農業・漁業大臣と本間書記官及び筆者  

追伸
   今月は、パラリンピックの閉会式前に、ハルスボー=ヨアンセン文化大臣が訪日し、萩生田文部科学大臣との会談が実現しました。また、当方は、ブラムセン国防大臣、ヴーメリン環境大臣、プレーン食料・農業・漁業大臣、レヘトマキ北欧閣僚理事会事務局長、ラーセン国会議員(グリーンランド与党IA出身)、カーステン「インフォマション」紙CEO及びルッケベルグ同編集長、ボー・リデゴー歴史家(元外交官・「ポリティケン」紙編集長)、フルゴード「ノボノルディスク」(製薬)CEO、ルンドケスト輸出信用基金CEO、ファルスコウ・カヌー協会会長、シルマー=ヨンス供給安全保障庁長官、外務省のシルマー=ヨンス安全保障代表、グロンベック=イエンセン外務審議官(欧州、北極担当)等の幹部、当地外交団関係者等とお会いし、更に、エレベック移民センター視察等の機会を通じて、両国間協力の展望、当地日本人の方々の安全と安心の確保、国際及びデンマーク情勢等について意見交換しました。
   また、東海大学ヨーロッパ学術センター50周年記念式典、高田ケラー氏の個展Floating Universe開会式では祝辞を述べる機会を頂き、カヌー・スプリント及びパラカヌー世界選手権、南部ムン島でのホルム翻訳家が主催された日本文学関連行事、南部ロラン市での「食の国民会議」等、様々な行事にもお声がけ頂き、出席させていただきました。ありがとうございました。なお、個人的には、8万人が参加した「ロイヤル・ラン」1マイルの部に参加し、ゆっくりと完走したことも思い出に残る月となりました。