大使レター12月号 「デンマークにて令和3年を振り返り」
拝啓
今年もいよいよ残すところ数日となりました。皆様にとりまして、どのような1年であったでしょうか。
新型コロナウイルス感染症が継続する中、なかなか思いどおりの生活や仕事ができないもどかしさを感じながら、少しずつ対処のしかたも学んで、この1年も過ごしてきたように振り返られます。日本からの訪問者は減りましたが、デンマーク王国に深く根を下ろし、日本とデンマークの交流について、日々模索するような1年でもありました。
3月、日本大使公邸にて、震災10周年に緊急事態庁メンバーと
まず、今年は、東日本大震災10周年の節目の年でした。3月、当地で長年活動されてきた中原芳樹画伯による「Fukushima 2011」を日本大使公邸に展示いただき、10年前にデンマーク国防省緊急事態庁から日本に派遣されたメンバーの方々はじめ、3月11日の前後に、コロナの衛生対策に十分に配慮した上で、デンマーク官民の様々な関係者に小人数で公邸にお越しいただき、当時の協力に重ねて謝意を表明しました。また、桜木由美子日本人会会長及び宮下元日本商工会議所副会頭及び日本大使館館員と共にオンラインで、犠牲となられた方々及びご遺族の方々に哀悼の念を表し、復興への希望を託しました。
11月、東京の飯倉公館において日デンマーク外相会談
そして、両国の要人往来を振り返れば、8月にラスムス・プレーン食料・農業・漁業大臣が文化(スポーツ担当)大臣の代理で東京オリンピックに、9月にアナ・ハルスボー=ヨアンセン文化大臣がパラリンピックに参加するため、訪日しました。11月に、イェッペ・コフォズ外務大臣が訪日し、林芳正外務大臣はじめ官民の要路と対面で会談し、「自由で開かれたインド太平洋」や両国経済関係、人的交流等について意見交換したことは、記憶に新しいところです。新型コロナウイルス感染症に伴う水際措置や規制が、両国において刻々と変更される中、このような訪問が行われ、対面外交が実現されたことは、とても意義深いことでした。
また、本年4月、グリーンランド自治政府に新政権が誕生し、9月、筆者は当地各国大使と共に現地を訪問し、エーエデ新首相に迎えて頂いたこと、更に、フェロー諸島自治政府関係者との協力についても同政府代表と相互に話し合う機会があったことも含め、自治政府との関係強化も一歩一歩進んでいます。
池原綾香日本女子ハンドボール代表
今年の東京オリンピック、パラリンピックにかける思いは、デンマークも日本も大変深いものがあったように感じます。デンマークのメディアはオリンピック前の日本の厳しい世論についても報じていましたが、そうした事情も分かった上で、「日本だからできた。日本は良くやった」と多くのデンマーク人から言っていただけます。デンマーク選手も、バドミントン、自転車、セーリング、ハンドボールなど数多くのメダル獲得や決勝進出の成果を上げました。
ちなみに、オリンピック主催国には、もう1つの機会が与えられます。栄養サミットの開催です。2012年のロンドン大会から始まったこの伝統を日本が引き継ぎました。12月、東京栄養サミットが開催され、「栄養の二重負荷」、すなわち、途上国での食料不足、逆に先進国での栄養過多の問題双方について、国際社会が協力しながら解決策を話合いました。これまで以上の官民200以上のステークホルダーが参加し、300以上のコミットメントが表明され、今後の大きな方向性が示されました。デンマークからは、プレーン食料・農業・漁業大臣がオンラインで参加し、持続可能な食生活の重要性について発言して頂きました。
ベアテル・ホーダー国会議員ご夫妻と
今年は、日本とデンマークの関係を長年にわたり豊かにされてきた両国民への叙勲伝達式も行われました。東海大学を通じた日本とデンマークの教育交流を支え、また日EU議員交流を一貫して推進してこられたベアテル・ホーダー国会議員(教育、移民、文化大臣等歴任)。村上春樹氏作品はじめ多くの日本文学をデンマーク語に翻訳したメッテ・ホルム氏。27年間にわたり日本大使館で文化交流を進めたミツマ・ケイ氏。
ヨハネス・クヌッセン機関長の遺徳を偲んで
そして、両国のきずなを深いところで強化している地方交流。オーデンセと船橋、コリングと安城、グラズサックセと台東、フェロー諸島クラクスビークと太地、ソローと涌谷、フォーボー・ミッドフュンと登別、成田とネストベズ、日高、美浜とフレデリクスハウン、シルケボーと嘉麻の姉妹都市等の関係に加え、オリンピック、パラリンピックでは、坂出・丸亀、大津、大潟、長野、東松島、二本松、練馬がホストタウンをつとめました。筆者は、ほぼ全てのデンマーク側市長とお会いし、現地を訪れる機会がありました。なかでも、今年2月、ビヤギット・ハンセン・フレデリクセン市長とオンラインで会談し、1957年2月10日に和歌山県の厳寒の海に飛び込み日本人漁民の救出を試み殉難されたヨハネス・クヌッセン機関長の勇気ある行動に敬意を表し、ご親族に哀悼の意をお伝えし、更に8月には日本大使公邸にて同市長をお迎えして同市と日本との交流について意見交換したことは、両国の心と心の交流の礎の1つに触れる思いで、大変印象的でした。
10月、高田ケラー有子氏の作品展オープニング
デンマークでは、12月19日をもって、美術館や劇場といった文化施設等が明年1月16日まで閉鎖される規制が再導入されました。今年1年、デンマークにて、私も含め多くの在留邦人やデンマーク人に勇気を与えて頂いた日本の文化関係者の方々の姿が脳裏に浮かびます。12月のデンマーク・ジャズ・フェスティバルで受賞された当地在住ピアニストの平林牧子氏、長年各地で癒しのアートを展示されてきた造形作家の高田ケラー有子氏、定期的に当地に来訪され指揮をとっておられる上岡敏之コペンハーゲン交響楽団首席指揮者、狭間美帆デンマーク公共放送ジャズ・ビッグ・バンド主任指揮者、ハンドボール女子日本代表として東京オリンピックに出場した池原綾香選手(当地「オーデンセ」所属。6月15日当館HPに寄稿)などなど。来年早くに社会が再開され、日本人アーティスト、スポーツ選手の活躍される姿を拝見できますように祈っております。
本年も色々とご指導、ご協力頂きまして、ありがとうございました。久々の再会と新たな出会いとに感謝しながら、どうぞ良い新年をお迎えされるようお祈り申し上げます。
敬具
|
|
宮川 学 拝 | |
![]() |
|
9月6日、日本大使公邸にてトリネ・ブラムセン国防相をお迎えして |