大使レター1月号 「うなぎ考 デンマークと日本の食文化」
拝啓、
大寒の候、読者の皆様、いかがお過ごしでしょうか。年末に、「王の没落」(イェンセン作、長島要一翻訳、岩波文庫)を読みました。約500年前のクリスチャン二世国王の一生と当時のデンマークを中心とするカルマル同盟末期の時代についての歴史小説です。デンマークでの生活も3年目に入ると、年末年始に少しずつながら、地元の方々とご一緒する機会もあり、気がつくこともあります。今も昔も、何か祝いごとをする時は、お酒、デンマークではビールやワイン、アルコール度40%のシュナップスが振舞われ、語り合う。500年前も今も、デンマークでも日本でも伝承されてきた、社会の知恵かもしれません。
シュナップスと共に供されるつまみは色々あるようですが、デンマークに来る前から、人づてに聞いていた燻製うなぎは、黒パンの上に乗せてオープンサンドイッチ(スモーボー)にして食べてもおいしくいただけます。日本の蒲焼とは違った、独特の味の深みがあるようです。以前、ベルギーに在勤した時には、緑色のスープに入ったウナギのぶつ切りを体験しましたが、正直「あれ?」という食感。おそらく、日本の蒲焼で培われた味覚、ウナギに対するある固定観念とかけ離れた味に、なかなか自分を合わせることができなかったのだろうと今は思います(注:もちろんベルギーにも、沢山おいしい料理があります)。
デンマーク人と日本人。誰が初めてウナギを食べたかは諸説あるのでしょうが、日本のうな重とデンマークの燻製うなぎのオープン・サンドイッチを見比べ、食べ比べると、相違点と同じくらい、共通点も見えてきます。まず、双方とも主食たるコメとパンの上に、おかずを乗せるスタイルが似ています。そして、炭火で焼くか、チップスで燻るかの製法の違いはありますが、実はどちらも香りを楽しみながら食べる点が似ています。更に、日本でもデンマークでも、うなぎは高級品です。昨今の市場価格のうなぎ上りの高騰は、その傾向に拍車をかけています。それもあってか、普通は、スペインのように稚魚のうちに熱々のガーリック・ソースで「アヒージョ」とか言いながらは食べませんので、持続可能な食文化である点でも、やや贔屓の引き倒しかもしれませんが、日本とデンマークは気が合います。
筆者の大学時代からの友人で、あだなが「ウナギ」さんとは、いろいろとご縁があります。水産会社で世界の海を渡り歩き、包丁をもてば、刺身、寿司はもちろん、和洋中あらゆる料理を作ってしまう匠。今は、日本で活躍中ですが、彼の原動力は、好奇心と探求心だろうなと想像しています。筆者とウナギ氏との共通の趣味の1つは、なんと芝居です。趣味の世界ながら、大道具作りから、英語劇の舞台まで、お互い一通り体験しました。そして、ウナギと言えば、1997年のカンヌ映画祭のパルム・ドールを獲得した今村昌平監督の「うなぎ」。人は一人ぼっちになった時、誰に語りかけるのか。冒頭の「王の没落」のテーマの1つとも、縦の糸と横の糸で、織りなし合うものがあるのかもしれません。
新年早々、かなり話があちこちに行ってしまい、失礼いたしました。どうぞ本年もよろしくご指導の程お願い申し上げます。
敬具
在デンマーク日本大使館 |
宮川 学 拝 |
追伸: 年の瀬から1月にかけて、デンマーク中で猛威をふるったオミクロンにもめげず、様々な分野の方々とお会いしました。クラオ社会・高齢者大臣、エーエデ・グリーンランド自治政府首相、イェンセン国会第一副議長、アナセン文化省次官、イェンセン国防省安保政策・作戦局長、エゲーリス・ダンスケ銀行CEO、ヘデゴー気候変動NGO会長(元環境大臣・気候担当欧州委員)、ラデゴー・デンマーク映画協会会長、クリスチャンセン・オーフス大学政治学部長、ユリアス・パブリック・インテリジェンスCEO、ジルバー・ユダヤ文化祭局長、ペダセン・コペンハーゲン・アトミックCEO、ペダセン外交政策協会事務局長、ソアンセン政務外審、ホメル経済外審、ラッセン政務局長、クリステンセン気候大使、タンゲ海洋安全保障大使等の外務省幹部、ハンセン・フェロー諸島コペンハーゲン事務所長等と、日デンマーク・グリーンランド・フェロー諸島間の様々な分野の協力、交流について意見交換を行いました。
また、全日本コメ・コメ関連食品輸出促進協議会 と農水省が共催したコメと酒のオンライン行事への参加・挨拶、デンマーク海軍中尉協会のオンライン会合にて南シナ海及び東シナ海等の日本を取り巻く安全保障情勢について講演・質疑応答等の機会を頂きました。ありがとうございました。