大使レター3月号 「ウクライナをめぐる日デンマーク協力」
拝啓、
日本では桜が満開、デンマークでも桜が咲き始めた今日この頃、読者のみなさま、如何お過ごしでしょうか。
(3月25日コペンハーゲン市内の桜)
ロシアによるウクライナ侵略から1か月が経過し、EU及びNATO加盟国たるデンマークは、日本と同様、ウクライナ支援(含む避難民の受け入れ)と対露制裁を維持・強化し、問題の解決に向け努力を重ねています。2月はじめから新型コロナウイルス感染症関連の規制が解除され、国内の報道を見ていると、ウクライナのニュースが大半で、あたかもコロナはもはや過去のことと錯覚させるような雰囲気すら漂っているように思えます。
そう思えるのは、1つには、筆者が2009年から2012年、在ロシア日本大使館に在勤し、ウクライナのクリミアを訪れヤルタ会談の史跡等をたどったり、モスクワでは、ウクライナ出身のロシアの官民関係者と日頃のやりとりがあったため、どうしても注意がそちらに向くことも影響しているかもしれません。
1 ロシアによるウクライナ侵略を受けた両国の外交努力
3月24日のブラッセルで開催されたG7首脳会議には、岸田文雄総理が出席され、EUを含む各国首脳に対して、日本のウクライナ支援、対露制裁、避難民受け入れについて説明すると共に、引き続き連帯して対処して行く決意を「G7共同声明」として表明しました。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100321689.pdf
岸田総理は、ブラッセル訪問中、EU首脳と会談を行い、今次侵略はアジアを含む国際社会全体の根幹を揺るがす深刻な事態であるとの認識を共有し、日EUの連携について一致しました。また、ストルテンベルグNATO事務総長との協議でも、双方の取組を評価し、連携して行くことを確認し合いました。
(3月24日 ブラッセル 日EU首脳会談、日NATO首脳協議)
同日、ブラッセルでは、EU首脳会議(欧州理事会)とNATO首脳会議が開催され、フレデリクセン首相が出席しました。右首脳会議に先立ち、デンマークは、国防費の大幅増加(2033年までにGDPの2%)、これまで不参加であったEU防衛協力に参加するための国民投票の6月1日実施を柱とする政党間合意に達しました。既に、デンマークは、NATOのバルト海空域での活動に海空軍兵力を増派してきましたが、更に一歩踏み込んだ形です。
(3月6日 国防に関する政党間合意。9日 ポーランド駐留NATO部隊訪問 写真出典:フレデリクセン首相Facebook)
ブラッセルでの首脳外交と前後して、ニューヨークでの国連総会臨時会合では、日本とデンマークは、数多くの同志国と共に、ウクライナ人道支援決議の共同提案国となり、決議の採択を共に後押しし、国際協力の輪を広げることに貢献しました。
2 両国の避難民対応
デンマーク在住のウクライナ人は3万人以上で、主として農業部門に従事在住していますが、今回の事態を受けて、ウクライナ避難民受け入れのための新法を策定し、今後、10万人以上の受け入れも想定しつつ準備を進めています。中には、デンマークを経由して日本に行きたいとの希望を申請してきたウクライナ避難民の方もおられます。
日本には、約1900名のウクライナ人が在住していますが、今次事態を受け、ウクライナ避難民の受け入れを決定し、既に、相当人数の避難民が到着し始めています。将来、ウクライナに平和が戻り、避難民の方々が、故郷に帰ることができる日が到来することを祈ります。
3 両国経済への影響
今月、ヴァメン財務相は、ウクライナ情勢がデンマーク経済に与え得る影響について、3つのシナリオを発表し、2022年GDP成長は、中間シナリオでは1.6%、厳しいシナリオでは0%、緩やかなシナリオでは2.2%と発表しました。2021年12月には2.8%成長を予想しており、いずれも下方修正です。一方、同大臣も発言しているとおり、「経済の出発点は強固であり」、つまり、これまでの蓄えがあり、また、早くから風力発電を中心に脱炭素化を進めてきた結果、ロシア産ガスへの依存度が低いこともあり、2023年以降は、着実に経済回復が見込める見通しのようです。
日本経済については、今月、日銀が景気は持ち直しつつあるも、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、国際金融資本市場に不安定な動きが見られるほか、資源価格も大幅に上昇しており注意が必要とする中、各種シンクタンクが下方修正を予測しています。そうした中、EUからの要請に応じ、日本の余剰分の液化天然ガスを融通し、EU首脳から右への謝意が表明されました。中長期には、既に、日本は2050年の脱炭素社会達成を目指して動き出していますが、エネルギー安全保障上の必要性からも、グリーン化が一層進むことが見込まれ、そこに日デンマーク企業間の新たな前向きなビジネス機会が生じつつあることは間違いありません。
4 日本とデンマークの協力
以上のように、日本とデンマークは、時に直接に、また時にEU、NATO、国連との協力を通じて、密接に連携して、ウクライナでの平和の回復に向けて、力を合わせて努力しています。両国は、力による一方的な現状変更は、断じて認められないとの立場です。今月、日本は、国際刑事裁判所(ICC)に対して、ウクライナの事態を付託し、デンマークもICCへの財政拠出を増加させました。法の支配、民主主義といった基本的価値を共有する日本とデンマークは、昨年11月のコフォズ外相の訪日の機会を含め、自由で開かれたインド太平洋を通じた協力、連携を深めています。ウクライナでの事態は欧州にとどまらず、アジアを含む国際社会全体の根幹を揺るがす事態であるとの認識を共有し、両国は、この面での協力を一歩一歩進めて行きます。
ブラッセルでのG7サミットに先立ち、当地ドイツ大使館において、ウクライナ大使を招いたG7大使会合が開催され筆者も出席しました。ウクライナ大使は、G7及びデンマークの協力に感謝すると共に、早期に平和を回復できるよう引き続きの協力をお願いする旨述べていました。その後、3月23日、日本の国会でのゼレンスキー大統領による演説(デンマーク国会では29日に演説)の後にも、とてもタイムリーに演説を行うことができたとの謝意表明もありました。当地でのG7大使会合は、今後も継続していく予定です。
(2月25日、3月18日の当地ウクライナ+G7大使会合)
末筆ながら、東日本大震災から11年の今月11日、日本大使館員は犠牲となった方々とご遺族に対して、哀悼の念を捧げ、黙祷いたしました。その直後の東北での大きな地震には、心が痛みます。デンマークの友人たちからも心配とお見舞いの声が届いています。東北のみなさま、どうぞご自愛のほどお祈り申し上げます。それでは、また、来月、デンマークのどこかで、または、この紙面でお会いできることを楽しみにしております。
敬具
在デンマーク日本大使館 |
宮川 学 拝 |
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*日本政府によるウクライナ支援策「日本はウクライナと共にあります」のリンクは以下となります。同リンクは随時更新されています。
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/ukraine2022/index.html

追伸
今月は、ベック国防次官、フランク・デジタル庁長官、ボッツアウ・エネルギー庁長官、チューエンセン国際就職統合庁長官、ベック国家警察国際局長、フェンガー・ゲントフテ市長、ヴィンドヘルト・フレデレクスベア市長、シャルデモーゼ欧州議員(デンマーク出身)、ハンセン・コペンハーゲン市事務総長、ミケルセン商工会議所(DE)会頭、インゲルスレフ「マースク・タンカー」CEO、クリスチャンセン・オーフス大学政治学部長、フィッシャー国際問題研究所長、ペーダセン外交政策協会事務局長、ラ・クー・フレデリクスハウン美術館長、ニールセン・バングスボー博物館長、キルクレー前全日本女子ハンドボール監督、ニューゴー前国内オリンピック委員会会長、クリステンセン作家・記者、外務省のソーアンセン外務次官代行、ブロード国際法総局長等の幹部、当地のG7、ウクライナ大使等外交団等とお会いし、当地日本人の安全・安心の確保、日デンマーク関係、ウクライナ情勢はじめ国際情勢について意見交換の機会がありました。
また、コペンハーゲン日本人補習学校卒業式・入学式、Nordstjerne(北極星)学校のジャパン・デー、コペンハーゲン市内での邦画「ドライブ・マイ・カー」プレミア、オーフス大学での日本同窓研究会合、東海大学ヨーロッパ学術センターでのデンマーク日本協会年次総会などに招待頂き、御挨拶申し上げる機会を頂きまして、ありがとうございました。