大使レター5月号 「7年ぶりの国民投票」
令和4年5月31日
拝啓
新緑の候、いかがお過ごしでしょうか。5月のコペンハーゲンは、晴れと雨が交互にやってくるためか、例年にも増して木々の緑や、花の白、紫などの色が鮮やかです。
これまで、デンマークは同盟国米国及びNATOとの協力を通じて、自国の国防はもとより、中東、バルカン、アフリカ等での平和維持に積極的に貢献してきました。賛成派が勝利すれば、新たにEUが行う軍事オペレーションにも参加が可能となります。具体的にどのような活動に参加するかは、今後検討されるものと思われますが、賛成派の政党の中には、例えば、難民が多く発生する国での安定を創出するためのオペレーション、ウクライナでの戦争終了後の地雷撤去支援ミッションへの参加などを例示する向きもあります。
日本にとっても、ロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更の試みであり、世界のどこであれ、決して受け入れることはできない事態です。よって、デンマークを含むEU、米国等と緊密に連携しながら、ウクライナ支援と対露制裁を実施してきています(詳細は下記リンク*参照)。デンマークでの国民投票の結果、EUの結束が一層強くなるのであれば、歓迎されます。昨年11月、コフォズ・デンマーク外相が訪日して、林外務大臣との会談などを通じて、デンマークと日本がEUなど同志国と共に、「自由で開かれたインド太平洋」への協力を深めていくことの重要性を相互に確認したことも、国際社会の平和と繁栄のために両国が共に協力して行こうとの意思の表れです。
* https://www.kantei.go.jp/jp/headline/ukraine2022/index.html
ロシアによるウクライナ侵略の結果、もう1つ、追い風が吹いている協力分野があります。今月、デンマークの西海岸の港湾都市エスビャウで開催された北海風力エネルギー首脳会議。デンマーク、ドイツ、オランダ、ベルギーの首相と欧州委員会委員長とが一堂に会し、ロシア産エネルギーへの依存から脱却し、北海における洋上風力発電にて、欧州の電力需要の太宗を賄って行こうとの「エスビャウ宣言」が採択されました。2030年、2050年に向けた具体的数値目標も設け、意気込みが感じられます。近年、再生可能エネルギーはじめグリーン・トランジション関連ビジネスは、日本とデンマークの間の相互投資や共同研究が急速に伸びている分野です。今後更に発展する潜在性も十分あります。
それでは、また来月、この紙面かデンマークのどこかで読者のみなさまとお会いできることを楽しみに、また、6月からは、両国の往来が一層進むことも期待しながら、今月はこの辺で失礼します。
敬具
新緑の候、いかがお過ごしでしょうか。5月のコペンハーゲンは、晴れと雨が交互にやってくるためか、例年にも増して木々の緑や、花の白、紫などの色が鮮やかです。

コペンハーゲン市エムドゥラップ湖の白鳥の親子
6月1日、デンマークでは、7年ぶりの国民投票が行われます(本稿は5月29日執筆)。5月のデンマークでは、あちらこちらに「イエスと投票しよう」、「反対票を投じよう」とのポスターが張られ、主要TV局も政党党首討論番組を企画するなど、あたかもミニ選挙が行われるかのごとき風景がくり広げられています。
投票のテーマは、EU防衛協力への参加の是非。デンマークは、1973年にECに加盟し、1992年、ECの協力を強化してEUを設立するマーストリヒト条約を批准するための国民投票を行いましたが、結果は僅差でNo。そこで、防衛、通貨、司法・内務、市民権の4分野については、EU協力に参加しないとの留保を行うこととして、1993年に再度国民投票を行い、マーストリヒト条約の批准に漕ぎつけました。その後、2000年、通貨ユーロへの留保、2015年、司法・内務の留保の撤廃のため国民投票を実施しましたが、いずれも僅差で反対派が勝利。留保撤廃のための国民投票では、2連敗中とふるいません。
ところが、今回は、2月のロシアによるウクライナ侵略が、デンマーク世論の風向きを変えたように見受けられます。つまり、「ロシアによるウクライナ侵略は、デンマークが重視する価値である自由、平和、民主主義への攻撃であり、デンマークは欧州とともに安全保障に関する協力を強化すべし」との与野党横断の主張が、国民の理解と支持を増やしています。5月の世論調査では、賛成派がややリード。投票態度未定との回答も相当割合あるため、6月1日の開票まで、結果は予断できませんが、賛成派が勝利すれば、歴史的な結果となると言われています。
投票のテーマは、EU防衛協力への参加の是非。デンマークは、1973年にECに加盟し、1992年、ECの協力を強化してEUを設立するマーストリヒト条約を批准するための国民投票を行いましたが、結果は僅差でNo。そこで、防衛、通貨、司法・内務、市民権の4分野については、EU協力に参加しないとの留保を行うこととして、1993年に再度国民投票を行い、マーストリヒト条約の批准に漕ぎつけました。その後、2000年、通貨ユーロへの留保、2015年、司法・内務の留保の撤廃のため国民投票を実施しましたが、いずれも僅差で反対派が勝利。留保撤廃のための国民投票では、2連敗中とふるいません。
ところが、今回は、2月のロシアによるウクライナ侵略が、デンマーク世論の風向きを変えたように見受けられます。つまり、「ロシアによるウクライナ侵略は、デンマークが重視する価値である自由、平和、民主主義への攻撃であり、デンマークは欧州とともに安全保障に関する協力を強化すべし」との与野党横断の主張が、国民の理解と支持を増やしています。5月の世論調査では、賛成派がややリード。投票態度未定との回答も相当割合あるため、6月1日の開票まで、結果は予断できませんが、賛成派が勝利すれば、歴史的な結果となると言われています。





国民投票で反対(左)や賛成(右)を訴えるポスター
これまで、デンマークは同盟国米国及びNATOとの協力を通じて、自国の国防はもとより、中東、バルカン、アフリカ等での平和維持に積極的に貢献してきました。賛成派が勝利すれば、新たにEUが行う軍事オペレーションにも参加が可能となります。具体的にどのような活動に参加するかは、今後検討されるものと思われますが、賛成派の政党の中には、例えば、難民が多く発生する国での安定を創出するためのオペレーション、ウクライナでの戦争終了後の地雷撤去支援ミッションへの参加などを例示する向きもあります。
日本にとっても、ロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更の試みであり、世界のどこであれ、決して受け入れることはできない事態です。よって、デンマークを含むEU、米国等と緊密に連携しながら、ウクライナ支援と対露制裁を実施してきています(詳細は下記リンク*参照)。デンマークでの国民投票の結果、EUの結束が一層強くなるのであれば、歓迎されます。昨年11月、コフォズ・デンマーク外相が訪日して、林外務大臣との会談などを通じて、デンマークと日本がEUなど同志国と共に、「自由で開かれたインド太平洋」への協力を深めていくことの重要性を相互に確認したことも、国際社会の平和と繁栄のために両国が共に協力して行こうとの意思の表れです。
* https://www.kantei.go.jp/jp/headline/ukraine2022/index.html
ロシアによるウクライナ侵略の結果、もう1つ、追い風が吹いている協力分野があります。今月、デンマークの西海岸の港湾都市エスビャウで開催された北海風力エネルギー首脳会議。デンマーク、ドイツ、オランダ、ベルギーの首相と欧州委員会委員長とが一堂に会し、ロシア産エネルギーへの依存から脱却し、北海における洋上風力発電にて、欧州の電力需要の太宗を賄って行こうとの「エスビャウ宣言」が採択されました。2030年、2050年に向けた具体的数値目標も設け、意気込みが感じられます。近年、再生可能エネルギーはじめグリーン・トランジション関連ビジネスは、日本とデンマークの間の相互投資や共同研究が急速に伸びている分野です。今後更に発展する潜在性も十分あります。
それでは、また来月、この紙面かデンマークのどこかで読者のみなさまとお会いできることを楽しみに、また、6月からは、両国の往来が一層進むことも期待しながら、今月はこの辺で失礼します。
敬具
在デンマーク日本国大使館
宮川 学
宮川 学

コペンハーゲンにて若宮国際博覧会担当大臣と当地日本人会・日本商工会議所の代表者と
追伸
今月は、若宮健嗣国際博覧会担当大臣がデンマークを訪問され、大阪・関西万博へのデンマークの出展について、コレラップ産業ビジネス金融相、ラナ・フェロー諸島外相、デンマーク産業連盟幹部等に働きかけを行われました。また、北村外務省気候変動大使が来訪し、50か国の代表とデンマーク主催の気候変動閣僚会議に出席しました。
筆者は、ミケルセン移民統合省次官、ディトマー産業ビジネス金融省次官、ウラム国立血清学研究所長、ラスムセン・エスビャウ市長、ウェナー・コペンハーゲン大学学長、イエンセン国立公文書館長、ウェンディン・ビジネス庁長官、ヘデゴー元気候環境相、省のホメル経済外務審議官、クリステンセン気候変動大使、ヴィンクラー北極担当大使等の幹部、ヴァウラー「デーニッシュ・クラウン(食肉企業)」CEO、フォールATP(年金基金)CEO、クラブ=ヨアンセン・ベアリンスケ紙CEO、ゴールドスタイン・ユダヤ協会会長、当地外交団関係者等とお会いして、両国交流、デンマーク在住の日本人の安全と安心、国際情勢、気候変動問題などについて意見交換を行いました。
また、フロスト・コペンハーゲンJazzフェスティヴァル事務局長にお招きいただき、コペンハーゲンで行われた高田みどり氏とヤコブ・ブロー氏の素晴らしいJazz公演を拝聴する機会に恵まれ、ありがとうございました。