大使レター6月号 「トロール兄弟、サーモン、ハンドボールとフェロー諸島 」

令和4年6月30日

 

拝啓
    「日本映画にとても関心がある」と語ってくれたのは、グドモンド・ヘルムスダル(Gudmund Helmsdal)監督。2020年2月末、トースハウンで開催された第6回日本映画祭に、ご家族と共に駆け付けた時のことです。その言葉のとおり、2日間の映画祭で全ての日本映画を鑑賞してくれたのみならず、フェローの雄大な自然を背景に、兄弟の心象風景をつづった短編映画「トロール兄弟」の会場での特別上映に同意いただきました。日本映画祭の終了翌日、筆者は、ニールセン・フェロー諸島首相、ラナ・フェロー諸島外務・文化・宗教大臣にお会いし、このフェロー諸島と日本との映画交流について報告しながら、「ヘルムスダル監督のトロール兄弟を拝見して、フェロー人の人生観や自然とのかかわり方に強い感銘を受けた。」との印象を述べ、特に、ラナ大臣は「自分もトロール兄弟を観た。素晴らしい映画であること、全く同感。」と意気投合したことを思い出します。「トロール兄弟」は、その後も世界各国の短編映画祭で上映され好評を博しています。https://www.facebook.com/trollabeiggi



Brother Troll ‘Trøllabeiggi’ Directed by Gudmund Helmsdal

 

    フェロー諸島は、デンマーク王国の自治領。そして、独自の文化と言語、歴史をもった社会を形成しています。公用語のフェロー語は、1846年にハンメシュハイム神父によって確立され、古ノルド語に起源をもつため、アイスランド、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン語との関連性も深い言語です。ノルウェーとデンマークの共同統治の下にあった1524年、借金の抵当としてフェロー諸島とアイスランドが、英国に割譲される提案が行われましたが、ヘンリー8世英国王が提案を受け入れなかったことは、フェロー語の存続にとって重要な決定であったそうです。当初、学校や教会ではデンマーク語が使われていましたが、1938年にフェロー語が学校や教会でデンマーク語と同等とされ、1948年、フェロー語は第1公用語となり、デンマーク語は第2公用語、現在、多くの人々が英語も話します。

    駆け足でフェローの歴史を振り返れば、西暦300年頃には、フェロー諸島で人々が生活していたことが確認されており、6世紀、アイルランドの神父たちが、9世紀、ノルウェーの農民たちが暮らし、900年頃にはフェロー国会が創設されました。999年、ノルウェー王の命により、ブレティソン(Sigmundur Brestisson)がキリスト教の布教を行い、同年フェロー国会はキリスト教を公認しました。1035年にノルウェーの1地域に組み込まれ、14世紀後半に、ノルウェーとデンマーク王室の共同統治の下に置かれました。1814年、ノルウェーがスウェーデンに割譲されましたが、フェロー諸島はデンマークの統治下にとどまり、第2次世界大戦後、1946年の国民投票ではデンマークからの独立が僅差で支持されましたが、同年の総選挙で選出されたフェロー国会議員の過半数はデンマークの自治領として留まることを支持したことを踏まえ、1948年の自治法制定により、現在の自治領(注:安保、通貨、警察、司法、外交といった一部の例外を除き、フェロー諸島が自治を行う)としての地位を確定させました。

 
    さて、日本とフェロー諸島の交流は、経済、文化・教育、北極、捕鯨などさまざまな分野で進展しています。例えば、2021年、フェロー諸島から日本へは、さけ・ます、にしんなどの魚介類を中心に9.5億円の輸出が行われ、同年の東京オリンピック・パラリンピックには、フェロー諸島のボートやマラソン選手が参加、捕鯨がご縁で始まった和歌山県太地町とクラクスヴィーク市との姉妹都市交流、北極評議会のメンバーであるフェロー諸島と同オブザーバーの日本との科学研究面での協力などが進行中です。

    これらの協力を一層広げて、深めて行こう、その一助として文書を作成しようということで、5年ほど前から、双方の様々なレベルで協議が重ねられてきました。そして、交渉の結果が整い、今年4月、ラナ外務・文化大臣が訪日し、鈴木貴子外務副大臣と会談し、両国間の貿易・投資、観光・教育・文化を通じた人的交流、税関協力、姉妹都市交流、海洋学・気候変動・再生可能エネルギーなどの学術研究協力などの促進を定めた日フェロー諸島間の協力覚書に署名しました。https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100330386.pdf

      
  
2022年4月 外務省にて ラナ外務・文化相と鈴木外務副大臣


    直後の5月には、デンマークを訪問した若宮健嗣国際博覧会担当大臣とラナ外務・文化大臣とが、2025年の大阪関西万博へのフェロー諸島の参加について意見交換を行いました。このワーキング・ランチが行われた日本大使公邸でサーブされたフェロー産さけメニューも、将来の日本とフェローの友好関係をさらに進めてくれるよう期待してのものでした。ます。8月には、2年ぶりにトースハウンで第7回日本映画祭の開催も予定され、コロナ前に行われていた高校生や大学間などの交流再開も待たれます。


 



    最後に、話は少し飛びますが、デンマークと同様、フェロー諸島でも、ハンドボールは国民的な人気のあるスポーツです。2年前の日本映画祭の機会に、フェロー諸島の女子ハンドボール・リーグで活躍されている日本人プレーヤーの方々とお会いしました。ニールセン・フェロー諸島首相も、ハンドボールのゴールキーパーの経験があり、日本人プレーヤーの活躍を御存じでした。その後、2021年5月にお会いしたヨハンセン・クラクスヴィーク市長(太地町の姉妹都市)も、プロの捕鯨漁師の資格に加え、ハンドボール・プレーヤーとして鳴らした経験もおもちです。日本でも、東京オリンピックを契機に、ハンドボール人気が高まっているように思われ、ハンドボールを通じた日フェロー交流が進むことにも期待がふくらみます。

    向暑の候、読者の皆様のご自愛のほどお祈り申し上げ、また、来月、どこかでお会いできる機会があることを楽しみにしております。


敬具
 
令和4年6月30日
在デンマーク日本大使館
宮川 学 拝
 




 


 


2020年2月 トースハウンのラジオ局にて筆者

 

    追伸:今月は、ベック国防省次官、ボッツアウ・エネルギー庁長官、ヨーアンセン国会議員(元フェロー諸島首相)、ヒュー=ダム国会議員(グリーンランド選出)、ローリッツェン・スナボー市長、スメッド・ボルディンボー市長、ニューゴー・コペンハーゲン文化担当市長、スミス改革委員会委員長、ローショー=ニールセン同委員、マーケアト・セーリング連盟会長及びブール・ハンセン選手(東京オリンピック参加)、レツォフ望星高校校長、スコウ「マースク」CEO、フォーシング「ダンフォス」CEO、ポールセン・コペンハーゲン・インフラストラクチャー・パートナーズCEO、ブストラップ産業連盟副CEO、外務省のソーアンセン政務外務審議官、シルマー=ヨンス儀典長兼安保特別代表、ラスムセン官房長兼領事局長、グロンベック=イエンセン欧州担当外務審議官等幹部、ハンセン・フェロー諸島コペンハーゲン事務所長、ハインリッヒ・グリーンランド・コペンハーゲン所長などとお会いして、日デンマーク・フェロー諸島・グリーンランド関係、デンマーク王国在住の日本人の安全・安心確保等について意見交換を行いました。

    また、デザイン博物館再開式典において、フレデリック皇太子殿下へご挨拶申し上げる機会を賜り、当地での独フリゲート艦「シュルスヴィー・ホルスタイン」号艦上式典でのブドスコウ国防大臣への挨拶、ラナ・フェロー諸島外務・文化大臣主催外交団レセプションでの同外相との立ち話、ヨーアンセン気候エネルギー供給大臣主催外交団ブリーフへの出席の他、ハンガリー・ヴェシグラード4議長国就任、ブラジル独立200周年等の大使館主催音楽コンサート、英国、イタリア、フィリピン、ポルトガル、南アフリカ、ルクセンブルグ、カナダの国祭日レセプションなどに出席し、各国大使に対して、祝意を伝達しました。

    そして、池原綾香ハンドボール「オーデンセ」選手が来館され、同チームのリーグ優勝の報告を頂いた他、「3daysofdesign」のMOTARASUブースに出展した谷敏行氏の作品を拝見し同氏のお話を伺う機会なども頂き、ありがとうございました。