大使レター7月号 「オルボーにて考えたこと 」
令和4年7月29日
暑中お見舞い申し上げます。
リンホルムのバイキング墓地(オルボー)
1つには、我々の自然に対する畏敬の念があるように思われます。オルボーのウッツオン博物館を見学しながら、着任以来、何度かお話をうかがった建築家ヤン・ウッツオン氏が、例えば、植物が成長する姿から、次のデザインの着想を得ることがある、それは父君ヨーン・ウッツオン氏(注:シドニー・オペラ・ハウスなどを設計)もそうであった旨、語っておられたことを思い出しました。何気ない自然の中に、崇高な価値を見出す特性は、両国民が、自然に対する畏敬の念を長年にわたって維持してきていることに根差すのではないかとの仮説です。
もう1つの我々の共通項は、共同体精神、つまり社会と個人の関わり方にあるように感じます。新型コロナウィルス感染症に直面し、国民が団結して、隣近所の人々へ思いやりをもって対処する姿を日々経験し、また、デンマークから日本の様子を見つめ続け、「あっ。我々は似ている点もあるな。」と感じることが何度かありました。共同体が発展してきた中で、目に見えるデザインは、複雑なものよりも、単純なもののほうが好まれてきたのではないか。その結果、両国にて独自ながら、一定の共通項もある共同体精神が発展してきたとの仮説です。やや話は逸れますが、デンマーク・デザイン・センターのベイソンCEOから、組織活性化のためのデザイン活用法につき、部屋のレイアウトから、外部から気づきを得る方法まで、ポスト・コロナも睨んだ貴重な示唆を何度かいただきました。その方法論の興味深さもともかく、なぜ、デザインで組織を改革しようとの議論が、デンマークと日本において静かな注目を浴びているかを考えると、共同体精神について前向きな価値判断があるからと思われます。
3番目の理由として、簡素なデザインや工夫の積み重ねが、とても精緻なものを作り上げるのではないかとの観察です。さかのぼれば、精緻なヴァイキング船の建造も簡素なデザインを幾重にも積み重ねて実現したものであったと聞きます。そして、日本の伝統的な漆器や版画にも、簡素なデザインを幾重にも重ねて精緻なデザインを完成させる知恵が垣間見られます。

デンマーク・デザイン美術館(日本刀つばの展示室)
KROGAGERFONDENの寄付により、ピエトロ・クローン同美術館初代館長が収集した同美術館所蔵のつばと1940年にヒューゴ・ホルバシュタット医師が寄贈した個人コレクションの双方が展示されることが可能となりました。既に、何度か拝見しましたが、理屈抜きに、とても素晴らしいコレクションです。
暑い日が続きますが、読者のみなさまのご自愛のほどお祈り申し上げます。また8月にこのページかデンマーク王国のどこかでお会いできることを楽しみにしております。
敬具 | |
在デンマーク日本大使館 | |
宮川 学 拝 | |
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追伸
7月8日の安倍晋三前総理大臣のご逝去に際し、数多くのデンマーク国民及びデンマーク在住の日本人を含む各国の方々から日本大使館に対しても弔意の表明を頂き、東京に伝達いたしました。改めて、心より哀悼の念を表します。
また、今月は、日本から小倉まさのぶ衆議院議員及び日本企業のご一行が訪問され、日本とデンマークのフィンテックなどデジタル化について、デンマークの官民関係者と意見交換を実施しました。当方は、ウェグナー・コペンハーゲン大学学長、レデゴー・デンマーク映画協会会長、イエンセン・フェンシング協会事務局長、エレマン=キンゴンベ首相府外交次官補、外務省のブロード国際法総局長、グロンベック=イエンセン外務審議官等の幹部、フェロー諸島外務省のヨアンスドッティル儀典長等関係者、当地外交団関係者等とお会いし、両国間交流・協力、当地日本人の方々の安全と安心の確保、現下の国際情勢等について意見交換しました。