デンマークの夏

令和2年7月30日
 
1 あるバックパッカーの見た夏  

   1987年夏。バックパッカーとして、デンマーク、スウェーデン、フィンランドを駆け足で旅行したのも、33年前のこと。もう記憶がおぼろげになりつつあるが、おそらくコペンハーゲン中央駅近くの若者向け安宿に転がり込み、大部屋の床に文字通り雑魚寝をし、翌日カールスバーグのビール工場を見学し、ビールの無料試飲をさせてもらったことは鮮明に覚えている。
 

Copenhagen Central Station

   あの夏、暑くて少し寝苦しかったが、この4ヶ月、新型コロナウイルス感染症対策で、一歩家を出れば、あらゆる場面で、社会的距離を取ることが必要となり、なかなか、人と人とが、近くで意思疎通することが難しいことと比べると、懐かしくもあり、誤解をおそれずにあえて言えば、ある種のぜいたくだったのかな、とすら思われる。

2 社会の再開

   「今はお互い距離をとることで団結しよう。」3月、マルグレーテ二世女王陛下は国民に直接語りかけられた。デンマーク政府は、3月上旬に在宅勤務、国境閉鎖、レストラン、学校、劇場等の閉鎖を断行して、新型コロナウイルス感染症の拡大を上手く防いできた。その後、慎重に封鎖措置を解除し、今は、4段階の社会再開ステージの最終段階にある。

   こうした段階的な社会の再開に合わせて、筆者も、デンマークの方々とお互いに衛生上の措置に注意しながら、対面での意見交換を慎重に再開。3,4ヶ月ぶりの再会は、「大丈夫でしたか?」から始まり、職場の様子、在宅勤務の感想などについて語り合い、「ここで油断せずに、第2の波を上手く乗り切りましょう」、「ワクチン、治療薬の開発で日本とデンマークも頑張ろう」、「早くお互い往き来ができるようになりますように」、「経済回復をしっかり進めなくては」といった点でうなずき合う。

3 デザイン美術館の決断

   一連のデンマーク政府、企業、報道、文化、スポーツ関係者、当地外交団等との会話の中で、印象に残る経験談の1つは、デンマーク・デザイン美術館のアン=ルイーズ・サマー氏のお話し。多くの美術館が、6月上旬に来館者を制限しながら、再開に踏み切る中、早々に2021年中は閉館してリニューアルを行うとの決定を発表した。過去6年で様々な改革に取組み、来館者を5倍増させたアイデア・ウーマンの「逆張り」の決断である。

   3月の閉鎖前まで、デザイン美術館を何度も訪れたが、インターンの男女の大学生など、明るく笑顔の職員がてきぱきと働き、館内には、デンマークの現代の工芸品から18世紀のロイヤル・コペンハーゲンの壮大なコレクションまで、所狭しと展示されていて、何時間いても全く飽きない、どころか毎回、デンマークについて新しい発見をしたような気持ちにさせられる。
 

Photo from DESIGNMUSEUM HP

   2015-19年(末井誠史大使、鈴木敏郎大使の任期)、同美術館は「日本から学ぶ」との特別展を開催した。オープニング式典の席上、末井大使は「将来「デンマークから学ぶ」展を日本で開催できたら幸い」と挨拶された。例えば、日本刀のつばの膨大なコレクション。20世紀初頭にデンマーク人医師が収集した作品の寄贈を受けたらしい。2021年に東京オリンピック、パラリンピックが開催される時に合わせて、刀のつばに、一時的に里帰りしてもらえないかとの構想も、閉館中の2021年であれば、逆に日の目を見るかもしれない。

 

Photo of Japanese sword “Tsuba” at DESIGNMUSEUM in January
 
 
在デンマーク日本大使館
宮川 学
 
追伸

   今年のデンマークの夏は、例年以上に涼しいらしいです。7月とはいえ、朝晩12℃くらいまでひんやりとなり、昼も20℃に届いたり届かなかったり。

   新型コロナウイルス感染症、未だ先が見通せない大変な時期が続きます。皆様の御自愛のほどお祈り申し上げます。そして、つかの間の夏、良い気分転換もできますように。