デンマークと私 第1回 和子・マイヤーさん「デンマーク民主主義対COVID-19」

令和2年3月23日
はじめに

 世界中で未曾有の感染症との闘いが続いています。デンマークも日本も,連帯の精神をもって,あらゆる対策を打ち出しています。日本,デンマーク両国の皆様のご無事を心からお祈り申し上げます。

 当館のホームページにおいて,表題のとおり,「デンマークと私」というタイトルのコーナーを設けようと企画したのは,今年1月のことでした。

デンマークという国がどういう国なのか,デンマークで活躍されている日本人の方々に,個人の経験や視点から,執筆いただこうと考えた次第です。
 

そして,第1回は,桜フェスティバルを控えた4月頃に実現したいと考え,この新コーナーの第1回目は,桜フェスティバルに長年にわたって多大な貢献をされてきた,元デンマーク日本人会長の和子マイヤーさんにお願いすることにし,快諾していただいた次第です。
 

残念ながら,特に3月に入ってから,この感染症との闘いはデンマークでも激しさを増す一方となり,今年の桜フェスティバルは中止との決定がなされました。和子マイヤー様には,同フェスティバルに因んだ原稿を執筆いただいていましたが,急遽テーマを変えて,コロナ危機に対するデンマーク政府の対応についての一文を寄稿していただきました。心から感謝申し上げます。

「デンマーク民主主義対COVID-19」 

レジのガラスの仕切り
レジ前の客の立つ間隔の印

3月に入って、北イタリアのスキー旅行から帰国した者の間に感染者が出てくるに従い、デンマーク人は、コロナ菌に関して段々本気にならざるを得なくなってきた。そして3月11日夜のメッテ・フレデリクセン首相の会見。それからあれよあれよと思う間もなく、毎日のように出される特別措置でデンマーク政府の取ったコロナ対策は、お見事という他ない。迅速かつ政治的な取り組みはヨーロッパでも称賛されたが、改めて合意主義の元に展開されるデンマーク政府コロナウイルス対策のstrategyの裏に脈々と流れる民主主義とその共生の精神を見た気がした。
 

 

11日の首相会見のポイントは、対策実施が大幅に遅れたイタリアの二の舞を踏みたくない、免疫力の落ちた高齢者、癌患者、社会の落伍者と呼ばれる弱者を若い健常者はかばって病気の犠牲にならないように責任を持つべきである。もし国民全員が協力して行動すれば危機対策の力になる。種々の小さな努力が大きな危機を救う事になる。デンマークよ、自重しなさい!というもので、落ち着いて真摯な態度で訴える首相に、久しぶりに政治家の言葉に感動した。
 

 

翌週から全教育機関を閉鎖。公共サービス機関は、国会から自治体の市民サービスまで最低必要職員数を残して自宅勤務。民間企業も可能な限りのスタッフを自宅勤務体制。1000人以上の集会、イベントの禁止を実施した。「デンマーク国の閉鎖・第2次大戦以来の歴史的政策」とマスメディアは、大きく報道。会見直後、トイレットペーパー等の買占めがあったが、その後食糧大臣の「物資は十分ある。」という訴えや、facebookや他の社会メディアでの非難ゴーゴーで2,3日後に静まっていった。
 


空っぽの棚

 

12日、早くも赤十字が「コロナ救済センター」を設立、募ったボランティア達が自宅待機で出られない市民、特に高齢者に代わって、買い物、薬局に行く、犬の散歩等々を引き受ける活動を開始。またfacebookで募ったらあっという合間に1000人近い市民が何か助けたいと集まったという明るいニュースも出てきた。
 

 

14日の正午には、いよいよ空、陸、海の閉鎖が始まった。と同時に企業界の経済的痛手が顕著に出てきた。これに対して、普通数週間から数か月かかるデンマークモデルと言われる使用者、勤労者、政府で構成される三者協定が何と24時間という異例の速さで決議され、特別の賠償金及び勤労者対策が15日公表された。目的は、それまで好景気で人手不足ですらあったデンマーク企業界から優秀なスタッフを解雇で手放すのではなく、あくまで自宅待機という形で解雇をしないで職員を保持する事にあった。国が75%、企業が25%、職員の給料を6月9日までの3か月間保証するもので、これも歴史的な措置であった。
 

 

感染者数が増加するに従い、17日首相は、全国民に事態の深刻さを改めて伝え、10人以上の内外での集会を禁止。特に若い国民グループにこの措置を守るように訴えた。この時には経済措置として大企業だけでなく中小企業への救済パッケージも準備されていた。この日は首相会見の後、マーガレーテ2世女王の政府の措置を守って欲しいと国民に訴えるスピーチもあり、王室がここまで国民の生活に入ってきたのは、歴史的な事でもあり、老若男女90%近くが王室のファンであるとされるデンマーク人の心をつかんだ。
 

 

18日全政党が超高速的合議の結果、DKK1000億(約1兆6千億円)(必要に応じて増額も可能)を投じて零細企業及び失業者までの救済パッケージを準備する事に成功。会見の場で、「これがデモクラシーの真髄」だと全政党の党首達が口を揃えて言った事が印象的であった。
 

 

まだ感染者の数が毎日増加を示し、コロナ危機はそのピークに達していないが、この政府を信じていれば心配がない気がする。
 



2020年3月23日記      和子・マイヤー

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