Tokyo Olympicにかけて
「デンマークと私」の5回目は、デンマークのハンドボールトップリーグ移籍のため2017年7月にデンマークに渡り、現在はデンマークの強豪チーム、オーデンセ(Odense)で活躍する池原綾香選手に執筆をお願いしました。お忙しい中、本稿の執筆を快諾いただき、心から感謝申し上げます。
現在、私はデンマークのトップリーグ、Odenseでハンドボールをしています。私が日本代表としてプレーしているのは2013年から。日本代表の欧州遠征で何度もデンマークには訪れており、対ヨーロッパ選手とのゲームマッチや合同トレーニングは、日本国内リーグにはいない体格の良い大きな選手、パワーとスピードを兼ね備えた選手が多く、私にとって刺激的で何よりハンドボールを楽しんでプレーしているのが印象的でした。
私がデンマークに渡ってきたのは2017年の7月。海外でプレーしようと決断したきっかけは、2019年に開催された熊本世界選手権、2021年(当時2020年)を控えた東京オリンピックに、自分自身が日本代表として最高の舞台で活躍、メダルを獲得し、日本でハンドボールをメジャーにしたいという想いからです。そこで自分が世界で活躍していくには、大型選手とのマッチアップに対応し、そして対海外選手相手に慣れ、オリンピックまでに国外仕様の身体に作り上げ、海外相手にも通用するプレーを身につけていくことが活躍することに繋がると考えたからです。ハンドボールは特にヨーロッパが盛んで強豪国でもあり、中でもデンマークリーグは国外から代表のトップ選手が集まるため、レベルが高い。そして、日本代表の欧州遠征で何度もデンマークに訪れていたこともあり、馴染みのある国でもあった為、デンマークでプレーしようと決断しました。
プロ契約に至るまで難しいものでしたが、Nykøbing Falster Håndbold Klubというチームと契約をし、2017年7月からデンマークリーグでプレー、そのチームに3年間在籍、その後はデンマークリーグ国内のOdense Håndboldに移籍をし、現在はここでプレーしています。ハンドボールシーズンは8月末~5月末となるのですが、先月末のデンマークリーグ決勝戦で勝利し、クラブ史上初の優勝をすることができました。私としてもここで初優勝することができ、個人の目標としていた、「デンマークリーグで優勝をし、自身の力でチャンピオンズリーグに出場する」という一つの目標を達成することができたので、自分としては本当に嬉しかったです。
日本とデンマークのトレーニング、ハンドボール環境の違い
私が日本のクラブチームでハンドボールをしていた頃は、プロではなく、一社会人として定時まで職場で働き、その後、夜に約2.5~3時間のトレーニングをしていました。私が所属していたチームは実業団ではなく、地域密着型のクラブチームで1企業1選手だった為、選手個人で終業時間が違い、全員揃ってからトレーニング開始となるので、練習が終了するのは夜遅く、その後、各々家に帰宅し、食事、お風呂となります。そのため、1日過ぎるのがとても早く感じ、所属した1年目はその生活に慣れるまでがとても大変なものでした。日本国内の他チームもプロ選手は(女子は1人2人しか)いなく、実業団チームでも午前中働き、その後トレーニングとなるので、1日中ハンドボールに集中してできるという環境ではありません。一方、デンマークのトップリーグチームはプロチームが多く、1日ハンドボールだけに集中できる環境があり、1回のトレーニングも約1,5~2時間で2時間以上のトレーニングは絶対にしません。アップにはサッカーだったり、少し遊びの要素も入れてトレーニングに入るので、正直ハンドボールする時間は1時間ちょっとだったりもします。私はここにきて当初、日本で長時間トレーニングに慣れていたのもあり、物足りなさを感じていましたが、その短時間トレーニングの意味には、私が感じていた「もっとやりたい」「これやりたい」というトレーニングの物足りなさが、翌日、または次の自分へのトレーニングのモチベーションとなる効果があり、更に短時間の短期集中が大きな怪我防止にもなることを知りました。また、練習中の雰囲気はとても明るく、冒頭でも述べたようにみんなが楽しそうにハンドボールをしているのが刺激的でした。新しいことにチャレンジ、失敗することに対して、監督・コーチは否定的・マイナスな事を言うことはなく、それを監督・コーチはアドバイス、サポートするような環境にあります。だからこそ選手たちは失敗を恐れることなく、トレーニングの中で様々なシュートやパスなどに日頃からチャレンジをし、それが成功すると皆で喜びを共有し、またチームの雰囲気も上がり、そして新たな課題にチャレンジしていく雰囲気が自然とできているようなトレーニング風景です。この雰囲気が選手たちの次のモチベーション、スキルアップ、自主性にも繋がり、自らハンドボールを楽しんでトレーニングできていると実感しています。
日本国内リーグ、ヨーロッパリーグの違い
私がデンマークに来てから、運良く二度のチャンピオンズリーグに出場することができました。そこで4年間ここでプレーして感じることは、相手のフィジカル面の強さ、スピード感、突破力はもちろんのこと、最終局面で対人するGK(ゴールキーパー)との駆け引きの面白さです。日本国内には高身長で、かつダイナミックなGKは少ないですが、ここでは180cm超えの大型GKは当たり前で、さらに予測不可能なキーピングにダイナミックさがあります。そのGKから得点を取るには、球持ちを長くし、先に相手が動くのを観察してシュートコースを打ち分けたり、相手が待つタイプであればクイックでシュートを打ち込んでタイミングを変えたり、テクニックのある選手だと球の軌道を変えるスピンシュートなどと、瞬時でのシュートの工夫が必要となってくるので、お互いの駆け引きが面白いところです。だからこそここでの大型GKに対しての慣れがオリンピックに向けての良い準備期間にもなっています。
私たち日本人は海外選手に比べ、体格も小さければパワーも劣ります。しかし、ここでプレーして感じることは日本人の小ささは強みでもあり、スピードはここでも通用することです。私たちの細かな動きや器用さは日本人特有の動きで海外選手にとっては対応が難しいように感じます。日本人は小さいので一見不利に思えますが、海外勢が高さで勝負するように、私たちはこの小ささを活かして“低さ”で勝負します。私たちの強みとしている、脚を使ってのアグレッシブさ、機動性、連動性が機能することができれば、強豪ヨーロッパ勢にも勝てると確信しています。なぜなら2017年、2019年の世界選手権で日本の強みである“低さ”で勝負し、強豪ヨーロッパ勢に勝利することができたからです。
オリンピックまで
女子ハンドボール日本代表は、44年振りのオリンピック出場になります。このコロナ禍での東京オリンピックの開催について様々な意見がありますが、私たちは強豪ヨーロッパ勢に勝つ為に、このオリンピックで最高の成績を残す為に、代表国内合宿、ヨーロッパ遠征でのゲームマッチなど経験値を積み、沢山の時間を共にしてきました。私自身としては、海外で大怪我をし、初めての手術を経験しましたが、長いリハビリ、トレーニングを経て復帰することができたのもこの東京オリンピックで必ず結果を出し、日本ハンドボール界の歴史を変えたい。という強い思いがあったからこそです。日本のスポーツでハンドボールはまだまだマイナー競技です。ここデンマークではハンドボール発祥の地でもあり、小さい頃からハンドボールに触れる機会が多く、身近に、文化として根付いているスポーツ。ハンドボールは身体接触が激しく、スピーディーな攻防の展開の中で瞬時に展開が変わるのもハンドボールの面白さ、楽しさです。やっても、見ても楽しい、そしてその楽しさをもっともっと沢山の人に知ってもらいたい。見てもらいたい。そんな思いです。
ここまで、家族や、友達、お世話になった恩師、元職場の方々、スポンサー、ファンの方々のたくさんの応援、サポートのおかげで今の私がいます。だからこそこのオリンピックで必ず結果を出したい。メダルを獲りたい。国民の安全・安心の配慮はもちろんのこと、オリンピックアスリート選手として、今はオリンピックが無事に開催されることを願っています。